Lesson4-5 睡眠不足はコミュニケーションの大敵

睡眠不足とコミュニケーション

コミュニケーション能力に自信のない人は頻繁に憂鬱になることがあります。私たちは何事も上手くいけば愉快な気持ちになりますし、失敗すれば憂鬱になるのですから、コミュニケーション能力に自信のない人が現代社会に生きれば憂鬱になってしまうのは当然のことですね。

一方で、「それは本当にコミュニケーション能力の問題なの?」と疑問に思うことも多々あります。たとえば、お肌の大敵とも言われる「睡眠不足」ですが、睡眠が足りていないせいで会話や意思疎通の能力が一気にダウンしていることもあります。

「眠ければ会話に支障をきたすなんて当たり前じゃないか!」とお考えになる方もいらっしゃるでしょう。睡眠不足がさまざまな行動に悪い影響を及ぼすのは誰だって知っています。しかし、睡眠不足によってどのくらい能力が落ちているのか、また能力を落とさないためには何時間の睡眠が必要なのか、睡眠不足がコミュニケーション能力に悪影響を与えるメカニズムはどのようなものか、といった具体的な話になると、そこまでは知らないという方も多いでしょう。

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このLessonでは、睡眠とコミュニケーションに関する誤解について学習します。

睡眠とコミュニケーション能力の関係

私たちがコミュニケーションを取る時、脳のどの部分が活発に働いているのでしょうか。

答えは前頭前野です。前頭前野がつかさどるワーキングメモリはコミュニケーションを取る上で非常に重要な「情報の一時的な保管庫」で、いわば脳内の作業机とも言うべき場所です。ここが睡眠不足によってやられていると、

  • 意思決定が難しくなる
  • 大事な価値判断に迷いが生じる
  • 脳に適切な情報が入って来なくなる

など、悪い状態が続いてしまいます。睡眠不足で会話が下手になったりコミュニケーションの質が落ちる理由はここにあります。もし想像するのが難しい場合は、睡眠の足りない日は10年前の性能のパソコンを使っているようなものと考えると分かりやすいでしょう。電源ボタンを押したら5秒で起動する最新のパソコンと5分ほどかかる古いパソコン、どちらが使いやすいかは一目瞭然ですね。

コミュニケーション能力を落とさないために必要な睡眠時間

前提知識となる睡眠のメカニズムについて少しだけ触れておきましょう。人間の身体は90分ごとにレム睡眠とノンレム睡眠の周期が訪れるように出来ており、このサイクルの途切れるタイミングが目覚めやすいタイミングと重なっています。実際には人によって睡眠の周期は少しずつ異なっているのですが、おおむね90分前後の範囲に収まっています。

睡眠の周期の話が独り歩きした結果、人間は90分単位で睡眠を取るべきであるという説が流行したました。この説によれば、人間は90分単位を意識して睡眠を取り、6時間や7時間半程度寝てすっきり目覚めやすいと言われています。

現代人はどうしても夜更かししやすいので、睡眠が不足しがちです。そこで、この「90分単位」の話を信じ込んでしまうと、「それじゃあ6時間寝ると丁度良いのかな」と考えてしまいがちです。

人間の身体は若いほどたくさん睡眠を必要としており、5時間や6時間で大丈夫と言えるのは老人になってからです。若い人が6時間程度しか寝なかった場合は、一般的には十分寝ていると思われがちですが、実は睡眠不足なのです。

こんな実験があります。ある砲兵大隊を睡眠時間別に四つのグループに分け、20日に渡る砲撃訓練を行いました。グループの睡眠時間は、それぞれ毎日7時間、6時間、5時間、4時間です。グループごとに砲撃命中率の差を取るとどのくらいの差が出たと思いますか?

実は一日4時間しか寝ていないグループの命中率は最高で15%と悲惨なものでした。5時間睡眠のグループは28%、6時間睡眠で50%、7時間睡眠はなんと98%の命中率を叩き出したのです。一般的に「充分」とされる6時間睡眠のグループでも、なんと7時間睡眠の半分ほどのパフォーマンスしか発揮できていないことになります。

もちろん、大砲を撃つ能力とコミュニケーション能力を同じ土俵で語るわけにはいきません。身体を使うものと脳を使うものとでは直接比較することは出来ませんし、個人差や食事・生活習慣などによる差も大きいでしょう。しかし一般的に睡眠不足の影響は身体よりむしろ脳の方に顕著だとされています。

普段私たちは6時間も眠れば十分だろうと考えてしまいがちですが、それは間違いです。ここを誤解していると、単純に実は睡眠不足でコミュニケーション能力が落ちているだけなのに「自分は会話が下手だ」と勘違いする恐れがあります。

もしコミュニケーションに自信がない方は、まず一日7時間以上の睡眠を取るよう心掛けてみてください。