社会構造の変化とコミュニケーション
コミュニケーションに求められる技術や考え方の変遷にはテクノロジーの発展が深くかかわっています。
インターネットやSNSの発展にしたがってコミュニケーションの総量が増え、しかもそこで要求される態度は旧来のコミュニケーションと良く似ています。自分よりも相手の利益を優先し、相手を心地良くさせることで活発なコミュニケーションを導くという方針は、現代においても通用する技術です。しかし、話相手を心地良くさせる技術はそう簡単に得られるものではありません。
そう考えると昨今の変化は喜ばしい変化とも呼べるのではないでしょうか。インターネットやSNSの発展により、物理的に遠く離れた人とも頻繁に意思疎通できるようになったわけですから、現代人は以前よりずっとコミュニケーションの経験値を積みやすくなり、人付き合いが上手くなっているはずです。
ところがそうはなりませんでした。会話や意思疎通のためのやり取りに疲れてしまう人は年々増え続けています。その理由について学ぶためには、日本の社会構造の変化を押さえておく必要があるでしょう。このLessonでは日本社会の変遷がわたしたちのコミュニケーションに与えた影響について、詳しく追っていきます。
核家族化と少子化
現代の日本社会における問題は多々ありますが、「核家族化」は国を挙げて対策せねばならない大問題として意識されることも多いものです。しかも、これらの問題は子供時代の成育環境やコミュニケーション能力を培うのに大きな影響を与えています。
まずは核家族化について見ていきましょう。
核家族とは、具体的には以下の条件を有する家族のことです。
- 夫婦とその未婚の子供
- 夫婦のみで構成された家族
- 父親または母親とその未婚の子供
結婚したばかりで親とも同居していない夫婦、夫婦とその子供だけで構成された家族は、基本的にはこの核家族に分類されます。

統計局のホームページに掲載された平成27年の国勢調査を確認してみましょう。日本では昭和45年から平成27年までの20年間で総世帯数がおよそ3000万世帯から5340万世帯へと増加しましたが、1世帯あたりの人数は3.45人から2.38人へと減少しており、
- 夫婦と子供だけの核家族
- 一人暮らし(単独世帯)
の割合が純粋に増加していることが分かります。日本では核家族化の進行、特に単独世帯やDINKs(共働きで子供を作らない夫婦、Double Income No Kidsの略)の増加が大きな課題としてのしかかっています。
核家族化が進行すると、子供が成長する場である家庭は至ってシンプルなものになります。家庭内のコミュニケーションの相手は親兄弟くらいのもので、離れた田舎に住む祖父母や親戚と顔を合わせる機会もそう多くはありません。
子供が成長して幼稚園や保育園、それに小学校などの教育機関へ進めば同年代の子供たちとの交流も増えるのですが、年齢差のある相手と深く交流するきっかけはなかなか得られません。
すると、どういうことが起こるのでしょうか。
歳の変わらない相手とのコミュニケーションならば、さほど難しくありません。お互いに同じ時代を生きているわけですから、流行りの商品やサービス、テレビ番組の内容などで盛り上がることが出来ます。「みんな」の体験はある程度共通していますから、自分の経験を話すだけで一緒に盛り上がれたりします。
しかし社会に出てからはその方法が通用しなくなります。現代社会から隠れ住まうような生き方を選ばない限り、自分とは違う年代の人々とコミュニケーションを取る必要が生じるからです。生きて来た世界も違えば子供の頃の経験もまるで違う、出身地も遠く離れており、趣味もかけ離れている。そのような他者と滑らかに会話するためにはコミュニケーションの技術が不可欠です。
同年代相手のコミュニケーションの経験しかないと、異なる世代との意思疎通は困難を極めます。核家族で暮らし、上の世代の人々の交流が「親」と「学校の教師」だけ……という方はさすがに少数派でしょうが、昔と比べて年上や年下の人を相手にする機会は減りつつあります。
この状態で社会に出てしまえばどうなるでしょう。違う年代との会話や相互理解は非常に難易度の高いものです。人間にはそもそもコミュニケーションの能力が備わっているとはよく言われますが、その能力は努力せずに伸びるものではありません。
しかも周りは核家族化の深刻な影響をまだ受けていないような大人たちばかりですから、素人同然のあなたに対してより優れたコミュニケーション能力を発揮するよう強く求めて来るかもしれませんし、下手な受け答えをして幻滅させてしまう恐れもあります。
核家族化によって縦の人間関係を意識する機会が失われても、子供の内はさほど大きな問題にはなりません。家族と地域社会という限られた世界の中で暮らすなら、必要とされるコミュニケーション能力もさほどのものではありませんし、相手も自分のことをよく理解してくれる人ばかりです。しかし社会はそんな前提で動いているわけではありません。
次回のLessonでは、更に大きな社会問題として意識されている「少子化」と「地域社会の崩壊」についてお話したいと思います。