少子化と地域社会の崩壊
「少子化」「地域社会の崩壊(過疎化)」は戦後の日本社会を揺るがす大きな問題の両輪とも言えるものでした。少子化と過疎化は人口減少の大きな要因ですが、これらがコミュニケーションに与えた影響も決して小さなものではありません。
ぞれぞれの問題について、詳しく学んでいきましょう。
少子化
少子化はコミュニケーションに悪い影響を及ぼしています。兄弟姉妹が減ればそれに応じて人付き合いのパターンも減ってしまうからです。
たとえば、父親と母親、子供一人の家庭を見てみましょう。1対1のコミュニケーションを想定すると、子どもは自分と父親・母親と話をすればよいことになります。20~40歳ほど上の男性および女性との意思疎通が家庭内の基礎コミュニケーションパターンです。
ソロ、すなわち一対一のコミュニケーションに関しては、一人っ子であろうと兄弟姉妹がたくさんいようとそこまで変わりません。もし兄弟姉妹が一人増えたとしても、上記のパターンに「自分と同年代、あるいは数歳離れた身内」のパターンが追加されるだけです。
しかし兄弟姉妹のいる家庭といない家庭では、複数人と同時にコミュニケーションを取った場合の複雑さが大きく異なります。ソロでは2パターンと3パターンの差で済みましたが、複数人だとどうでしょう。両親と子供のコミュニケーションという形で見ても、「父親と自分」「母親と自分」「両親と自分」「父親と母親+自分」「母親と父親+自分」の五パターンで済んだものが、兄弟姉妹が増えることで爆発的に増加します。
兄が一人いる場合を想定してみましょう。
- 父親+兄と自分
- 母親+兄と自分
- 両親+兄と自分
- 父親と兄+自分
- 母親と兄+自分
- 両親と兄+自分
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このように、一気にコミュニケーションのパターンが増えることになります。一人っ子でなくなったことにより、兄弟姉妹と親のやりとりを傍観するという形で、人間関係のパターンが増えることもあります。
少子化が進むと家庭内のコミュニケーションパターンが一気に複雑性を失っていきます。これが家庭内コミュニケーションにおける少子化のデメリットです。
地域社会の崩壊
戦後日本を代表する社会問題の一つが地域社会の崩壊、過疎化です。同じ地域に住んでいると昔は「ご近所さん」としてお互いの顔を知っているのが当たり前でしたが、今では一人で困っている子供に声をかけるだけでも「不審者がうろついている」とみなされるほどに地縁が希薄になりました。
一人暮らしや単独世帯の増加により、日本国内に限らず人の移動は増加しました。交通網が整備されたことにより移動手段が増え、昔よりずっと気軽に移動・移住出来るようになったのも要因の一つと言えるでしょう。例を挙げると、昔であればヨーロッパへ旅行するのにフェリーで一ヶ月もかかったかもしれませんが、今ではほんの数日、飛行機を使えば一日で移動することも不可能ではありません。
また、通信販売や情報伝達網の整備によって家にいながら様々な物・情報を手に入れられるようになると、人と交流する必要性も減少します。現代ではその気になれば誰とも関わらず生きていくことも可能であり、地域社会と縁がなくともこれといった問題が生じません。
地域社会との繋がりが薄れてしまうとどうなってしまうのか、想像するのは難しくないでしょう。地域ぐるみの子育てや「お互いが顔を知っている」状況、親密な人間関係が徐々に失われてきたのです。地域社会は自分の家族だけでなく様々な年齢層の人間との交流の場でしたが、それらが次第に希薄になった結果、実践的なコミュニケーションの場が減ってしまいました。
一昔前であれば子供たちが公園で一緒に遊んだり、地域密着型の銭湯や居酒屋で仲を深めたり、商店街の方々と親睦会を行うような機会が豊富にありました。実践的なコミュニケーションを練習するのに最適な場がたくさん用意されていたのです。

私たちは核家族化や少子化によって家族間の縦横の繋がりを失いつつあります。地域社会を家族の延長線上にあるものと考えるなら、同じことが起きていると言えるでしょう。
核家族化、少子化、地域社会の崩壊……人口減へと向かう現代社会の変化は、子供たちの成長過程におけるコミュニケーションや大人同士のそれに多大な影響を与えています。その中に良い影響と言えるようなものはほとんどなく、基本的には機会の消失と、それに伴うコミュニケーションへの苦手意識の増大という方向へ傾いています。
逆に言えばコミュニケーションに苦手意識を持つ世代が増えているということは、高いコミュニケーション力を持つ人材は優遇されやすいということでもあります。日本企業が採用の際に重視する能力として「コミュニケーション能力」を真っ先に挙げているのは、社会の変遷と現代人の能力の変化を敏感に見て取っているからでしょう。
しかし、そこで「なるほど!」とボディランゲージやトークスキルを磨いてしまう人は、コミュニケーションスキルの本質的な部分を半分しか理解できていません。Lesson3では、それらのコミュニケーションにまつわる問題点を一つずつ丁寧に拾いながら解説していきます。