脳には個人差がある
コミュニケーションに関わる脳機能の中でも、個人差の出やすいものと出にくいものがあります。ここでは個人差の出やすい機能の代表的なものを2つ挙げてみましょう。
聴覚系認知
聞いて理解できる能力のことです。耳から入って来た聴覚情報をきちんと処理する機能に問題が生じている人は、以下のような特徴を有しています。
- 勘違いを起こしやすい
- 聞いたことの内容が理解できない
- 似ている発音を聞き間違える
- 口頭での指示を理解するのが苦手
- 騒がしい場所で指示を聞き取るのが苦手
- 教室などで特定の誰か(先生)の話に集中できない
皆さんの周りにも、指示を受けて「はい」と返事をするのに、指示とは全く異なる行動を起こしてしまう人がいるでしょう。そういう人はひょっとしたら聴覚系認知機能に問題があるのかもしれません。
また、そのような方は長い人生の中で自分が「相手の言うことを理解し損ねやすい」「指示を聞き漏らしてしまいがち」であることに往々にして気付いていますので、コミュニケーションに対して一歩引いた感情を持ち合わせていることも多いのです。

もしあなたが指示を出す側であれば、「文書で指示を出す」「指示を繰り返す」といった具合に、相手にとって分かりやすく飲み込みやすいやり方を採用することでコミュニケーションを円滑に進めることが出来るようになるかもしれません。
ワーキングメモリー
脳の中に一時的にある情報をとどめておく機能のことをワーキングメモリーと呼びます。
分かりにくい場合はパソコンやスマホの「コピー」を想像してみてください。文章や画像などをコピーすると、メモリの中にコピーしたものの情報が記憶され、いつでも「ペースト」で貼り付けることが出来ます。しかし、別のものをコピーしてしまうと、前にコピーした内容が上書きされてメモリから消えてしまいます。
脳に入力した内容を一時的に保存しておくと、必要に応じて大事な情報を取り出すことが出来ます。たとえば「駅前の〇〇ってケーキ屋さんが美味しいみたいなんだけど」という話をされたとしましょう。五分後にケーキの話に戻って来たとき、ワーキングメモリーにそのケーキ屋さんの情報が残っていれば、「さっきの〇〇ってケーキ屋さんのことだけど、今度行ってみない?」という具合に話が出来ます。
ワーキングメモリーに弱点を抱えていると、このような「さっきの話」が咄嗟に出て来なかったり、誰かの行動を遠目に見つつ目の前の相手との会話に集中するといったことが出来なくなります。このような人の特徴を見てみましょう。
- 注意力が足りない
- 同時に二つのものに気を配れない
- 様々な物事の優先順位を付けられない
- モチベーションを保ったり計画を立てたりするのが苦手
- 三つ用事を頼んだら一つは必ず忘れる
- 仕事中に他のことに気を取られてしまう
聴覚系認知の問題と似ているものもありますが、基本的には「それはちょっと置いといて」が出来ないがゆえに生じる問題がほとんどです。ワーキングメモリーが弱い人は物事を整理するのが不得手ですので、一度にたくさんの命令が入ってくるようなお仕事、たとえば居酒屋の店員のような接客業には不向きです。
注意力をつかさどったり様々なものに優先順位を割り振ったりするのは前頭葉~頭頂葉の機能です。情報を元に行動に移そうとしてもなかなかモチベーションが保てなかったり計画通りに動けなかったりする場合は、前頭葉の機能が上手く働いていない可能性があります。
したがって、ワーキングメモリーの弱い人に指示を出す場合は「指示を小分けにする」「同時に二つ以上の仕事を割り振らない」などの方法で対応するよう意識すれば、以前よりずっと円滑なコミュニケーションを取りやすくなります。
では、このような処理能力の個人差や傾向を知るためにはどうすれば良いのでしょうか? 次のLessonでは、一般的に脳科学の分野で使われている心理検査を用いた自己分析をご紹介します。