Lesson2-1 脳とコミュニケーション

人間には個人差がある

Introductionでもご紹介した通り、人間の脳の情報処理能力は大きく異なります。「彼(人・相手・敵など)を知り己を知れば百戦殆(あや・危う)うからず」という諺もありますが、人間は自分のことを良く知っていても相手のことを中々理解できていないもので、それゆえに意思疎通に失敗してしまうというケースが多々あります。

コミュニケーションを学ぶ前に知っておくべき前提知識はいくつもありますが、まずはコミュニケーションという事象を脳の仕組みという側面から理解し、続いて各人の能力の個人差について理解を深めていきましょう。

五感と情報処理

人間は視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の「五感を用いて外部から刺激を得ます。この刺激は「情報として脳にインプットされ、脳内で情報処理が行われると、様々な意思決定を経て反応として出てきます。これが脳の仕組みから見たコミュニケーションです。

たとえば散歩中に綺麗なコスモスを見つけたとしましょう。視覚から入った綺麗な花の情報は脳の中にインプットされ、脳はその情報を分析します。「数メートル先に綺麗なコスモスが咲いている」という情報を元に「綺麗な花を堪能しよう」という意志決定が行われ、あなたは数メートル先に歩いていき花の前で屈みこみます。

20dd0142d3df7e9e63512dadbc30f8a9_s

会話と違って、花は愛でても何らかの反応を返すわけではありません。「情報入力」→「情報処理」→「意思決定」→「行動」の流れはこれでおしまいです。あなたはコスモスを存分に堪能すると、おもむろに立ち上がり本来の目的へ向けて歩いていくことになるでしょう。

情報のインプットから処理、意思決定と行動に移すまでの正常な流れはこのようなものです。

どこかで問題が生じていたら

五感の機能に問題がある場合はこの「情報入力」の部分でちょっとした齟齬が生じることがあります。たとえば「視覚」の機能に問題があり、壁の模様を花と見間違えてしまった状態で「綺麗な花である」という間違った情報を脳にインプットしてしまうと、行動に移って花の前で屈みこんだ時に「あ、これは花ではない」と気付くことになります。

では、情報処理の部分で問題が生じたらどうなるでしょう。あなたは花を見ているはずなのに、なぜかそれを「路上で火が燃えている」という風に解釈してしまうかもしれません。そうなると、急いで消防署に電話したり火を消せるようなものを用意したりするのですが、これは「花を見た人の行動としては間違っている」と言えます。

意思決定で間違えるとどうでしょうか。綺麗な花を視覚で捉える→綺麗な花が咲いていると脳が認識する。ここまでは良いのですが、意思決定の段階で何故か「挨拶をする」を選択してしまうと、道端の花にお辞儀をしてしまうかもしれません。

おかしな話だと思われるかもしれませんが、これらの問題はコミュニケーションの分野においては普通に起こり得ることなのです。人と会話をしている際に相手の言葉を聞き間違えるのは「情報入力」の失敗です。言葉の意味を取り違えるのは「情報処理」の問題、間違った返事を選択してしまうのは「意思決定」のミスのせいですし、言おうとした言葉とは正反対の言葉を返してしまうのは意思決定を「行動」に移すタイミングで何かがおかしくなっています。

脳の情報処理や意思決定における弱点に引っかかってしまうと、コミュニケーションは上手くいきません。そして脳の情報処理能力には個人差がありますから、対話相手の弱点を突かないよう注意深く言葉を選ぶのが極めて大事になります。

次のLessonでは、この問題に深くかかわる脳の個人差についてお話ししようと思います。