Lesson1-1 コミュニケーションとは何か

コミュニケーションの語源

コミュニケーションという言葉はラテン語のコムニカチオ(communicatio)が由来であると言われています。その意味は「分かち合うこと、共有すること」。現代のコミュニケーションと比べると、「相手に自分の意思を伝える」ことはさほど重要ではなく、むしろお互いの考えや意志を共有する方が大事だと考えられていたようです。

現代のコミュニケーション講座では、相手に伝わる喋り方や理解させるための論理的な会話術がしばしば強調されますが、語源からも察せられる通り、コミュニケーションは一方通行的なものばかりではありません。

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コミュニケーションのことを良く理解していない人は、「A→B」こそが大事だと考えがちですが、それは正解ではありません。「A→B、B→A、A→B……」の繰り返し、すなわち一方通行ではなく双方向的なものこそがコミュニケーションの神髄であると言えます。

これはコミュニケーション?

一方通行ではなく双方向的なものがコミュニケーションの神髄である、と言っても分かりにくいでしょうから、身近なもので想像してみましょう。

テレビ

テレビはマスコミュニケーション(mass communication)の代表的なメディアです。マスコミュニケーション、いわゆるマスコミは不特定多数の大衆(mass)に大量の情報を伝達するという意味の言葉ですから、これもコミュニケーションの一つの形態であると言えます。

しかしテレビは情報を一方向的に伝達するだけで、受け手からの反応を瞬時にフィードバックしたりはしません。番組の制作を行い、地上波に乗せて視聴者に届けはしますが、視聴者からの反応が返ってくるのは放送が終了してからずっと後のことです。

したがって、テレビは双方向的なコミュニケーションではなく、良いコミュニケーションのお手本とするには不向きと言えるでしょう。

もっとも、最近は地上波デジタル放送に切り替わったことで少し事情が変わってきました。番組中にリモコンを使って選択肢を選んだり、視聴者の評価をリアルタイムで送れるようになるなど、テレビもコミュニケーションの語源に近いものになってきました。

インターネット

インターネットは「情報を一方向的に伝達する」というテレビ的な性質のみならず、受け手側も情報発信者になれるという双方向性も持ち合わせたメディアです。マスコミは大量の情報を一方的に伝達するだけでしたが、インターネットでは私たち一人一人が情報の発信者になることも出来ますし、遠く離れた人々とリアルタイムで意思疎通を行うこともできます。

したがって、インターネットはテレビ等のマス・メディアと比べると、よりコミュニケーションの本来の意味に近いものであると言えるでしょう。

SNS

TwitterやFacebookなど、他者との交流をメインとするSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)はどうでしょうか?

これは非常にコミュニケーションの本来の形に近いものと言えます。SNSは情報発信者と受け手がフレキシブルに入れ替わるため、「私とあなた」という二者の直接的な対話が主流となります。

現実の世界とは違ってSNSは物理的な距離に左右されません。声は遠くまで届きませんが、文字媒体は非常に簡単に地球の裏側まで届いてしまいます。また、現実のコミュニケーションとは違って声の調子やボディランゲージではなく、文章の書き方によってコミュニケーションの巧拙が決まるのも特徴と言えるでしょう。

これらのメディアの違いを考えると、

  • テレビなどのマス・メディア
  • インターネット(双方向的なメディアの代表格)
  • ソーシャル・ネットワーキング・サービス

と順を追うように双方向性が強化され、現代に近づけば近づくほど、後者になればなるほどコミュニケーションの本来の姿に近くなっているのが分かります。

良いコミュニケーションとは何か?

先に挙げた各メディアを実際のコミュニケーションの場面に当てはめて想像してみましょう。

たとえば、テレビのように相手に対して「一方向的に」自分の考えていることや意見を述べるだけで、相手からの反応に対してはなかなか応じないとしたらどうでしょう?もちろん、大勢に大事なことを伝える教育者や知識人・言論人ならそれで良いでしょう。

しかし、実際のコミュニケーションの場においては、このような一方通行的な方法に頼るコミュニケーションはあまり良いものではありません。

人によっては「相手に自分の考えを適切に伝えることの出来る人なんだから、コミュニケーションが上手いのでは?」とお考えになるかもしれませんね。確かに、言いたいことをズバッと言える人、自分の思いを正しく伝えられる人は喋るのが上手なのかもしれません。しかしコミュニケーションは原点に立ち返れば双方向的なものですから、それを受け取った相手からの反応が芳しくなければ100点満点のコミュニケーションとは言えません

良いコミュニケーションとは、まず「相手ありき」であるということを理解しなくてはなりません。テレビやラジオの語り方を真似して一方的に「自分の意思を伝える」能力だけを鍛えても、コミュニケーションの上手な人間にはなれません。SNSのように「双方向的に」相手が意思疎通をしようとする思いを汲み取り、適切な対応を取れる能力を得る。「伝える力」と「応じる力」を得ることで、初めて良いコミュニケーションが取れるようになります。