Lesson7-3 心理学のテクニックを習得する

心理学のテクニックとコミュニケーション

心理学のテクニックを上手く利用すれば、比較的楽にコミュニケーションを進められるようになります。したがって、心理学的なテクニックを5個覚える、というように課題化してしまえば、それを一つ一つ消化していく形でコミュニケーションの技術を磨いていくことが出来るようになります。

ここではサンプルとして代表的なテクニックと、その応用例について学んでいきましょう。

ドア・イン・ザ・フェイス

これは要求水準の落差を上手く利用した心理学的テクニックです。主にマーケティングや営業の分野で使われるものですが、最初に大きな要求をすることで、より小さな本当の要求をごく軽いものに思わせ、承諾させやすくするのです。

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最初に「残業をなくして下さい」と要求するところを想像してみてください。それは無理だと言われ、それなら今度は毎日の残業を一時間ずつ減らしてみませんか、と提案します。言われた方は、さすがに残業をなくすのは難しいと考えていても、一時間ずつ減らすだけなら……と検討を始めてくれるかもしれません。

しかし、あなたの本当の要求は毎日の残業時間を少し減らすことですので、相手はほぼ術中にはまったことになります。これがドア・イン・ザ・フェイスです。

テクニックを受ける側には返報性の原理といわれるものが働いています。これは他人から利益を受けるとお返ししなければならないと考える原理のことで、上手く相手の返報性を引き出すことが出来れば交渉を楽な方向へ持って行きやすくなります。

交渉術もコミュニケーションのテクニックの一つです。このテクニックを一つ覚えておくことで、「相手に何かを要求する」ための会話は格段に楽になります。

フット・イン・ザ・ドア

ドア・イン・ザ・フェイスとは対照的なテクニックとなります。これは小さな要求を飲んでもらうことで次の要求も飲んでもらいやすくするというもので、何かをして欲しいときに有効なテクニックです。

仕事を手伝ってほしい時を想像してみましょう。一人でこなすにはちょっと大変な課題を新人に手伝ってもらいたい、という場面を想像します。「各店舗の売り上げ実績データをまとめて会議用の資料を作りたいからその手伝いをやって欲しい」というケースでやってみましょう。

まずあなたは、新入社員に対して非常に簡単なお願い事をします。「ちょっと今手が離せないから、この資料のコピーを取って来てもらえますか」という具合に。

新人の立場からすれば非常に簡単なお願いで、しかも先輩が忙しそうにしているのは分かりますから、特に急ぎの用がないのなら大体は飲んでくれます。これが終わると、次は「すまないけどこの資料のチェックをお願いしてもいいかな……」と要求をステップアップしていき、少しずつ仕事をお願いしていきます。

最初から「各店舗の売り上げ実績データをまとめて会議用の資料を作りたいから手伝ってほしい」と言い出した場合と比べて、小さな要求から徐々にステップアップしていくので、新人側の心の負担は軽くなります。

このように小さな要求を発展させていくのがフット・イン・ザ・ドアです。このテクニックを身に着けると、いざ仕事場で仕事をお願いするときに「声をかけづらいな……」と思っても大丈夫です。まずは小さなお願いから!という基本方針さえ立てていれば、次のコミュニケーションにもスムーズに移行できることでしょう。

このように初歩的な心理学のテクニックを多数知っておくと、コミュニケーションの切り出し方や応じ方に応用することができます。もちろん心理学のテクニック自体も話のネタに出来ますし、話題のストックとして知っておくのは悪くないことでしょう。

ちなみに、ドア・イン・ザ・フェイスの語源は読んで字の通り、門前払いをされるようなハードルの高いお願いを最初にするという意味です。逆にフット・イン・ザ・ドアは開いた扉に足先をほんの少し入れるという意味になります。