トークスキルを鍛えよう
これまでのLessonでも度々取り上げてきましたが、コミュニケーションはトークスキルだけでは成り立ちません。こちらが的確に話すだけでなく、相手にも居心地よく会話してもらえなければ、本来の意味でのコミュニケーションになり得ないからです。
かといって「話し方」をおろそかにしてはいけません。会話は「喋る―聞く」が交互に切り替わるシーソーゲームです。お互い「聞く」にシフトしてしまうと会話は中断してしまいますが、ここで上手く「喋る」に切り替えるためには話題のストックが必要です。
そのため、普段から様々な話を切り出せるように、話題をたくさん用意しておく必要があるでしょう。
会話のとっかかりを30個暗記する
話のとっかかりを何パターンも暗記しておけば、いざというときに好きな話題を切り出すことが出来ます。これは何種類もの変化球を身に着けた投手が、初めて対峙するバッターに球を投げる瞬間に似ていますね。ストレートしか投げられない投手はそれで勝負するしかありませんが、手練れの投手は相手の立ち方や癖を読んだ上で最適な球種を選択することが出来ます。

初めての会話でも立ち止まらないために、まずは30個ほど「何から話そうか?」と話題をストックしておきましょう。内容は人を選ばない話題であれば何でも構いません。今日の天気、家族のこと、ファッション、趣味や食べ物などを、覚えやすい形でまとめます。
たとえば「季節、ニュース、名前、ルール、今後、乗り物、みんなのこと」という七つのとっかかりを考えたとします。季節の話や会社の今後のこと、通勤に使う乗り物の話などはあまり人を選びませんから、初めての話の切り出し方に最適です。
頭文字を取って「気になる好み」と覚えておくと、人と会った時にこの単語を思い浮かべるだけで7つの話題を提供することが出来るようになります。
定型的な質問のフレーズを覚えておく
就職活動などで良く使われるやり方です。「〇〇から来ました、△△と申します。本日は貴重なお話をありがとうございます」と述べてから、
- 残業は一日に何時間ほどの見込みですか
- 福利厚生について教えてください
- 御社でキャリアを積んだ場合、30歳時点でどこまで年収を伸ばせますか
といった具体的な質問に入りますよね。ここで「内容を考えずに質問する」という方はあまりいらっしゃらないと思いますが、自分が本当に聞きたいことを聞く方もそんなに多いわけではありません。企業説明を受けた直後に自分の本当に聞きたいことがパッと出てくるような学生は少数派です。これらの質問の多くは聞き覚えのあるフレーズから成り立っています。
私たちは常に一からコミュニケーションを組み立てているわけではありません。人と朝の挨拶をするときも、朝礼のように文面を考えたり「朝の七時という早い時間帯にあなたとお会い出来て大変嬉しく思います。今日は幸せな一日を過ごせそうです」などと言う方はなかなかいらっしゃいません。大抵は「おはよう」と短い一言で済ませてしまいます。
快活な声で挨拶をすれば「今日は機嫌がいい」というメッセージも伝わりますし、逆に沈んだ声で言えば「何かあった」とか「今日はあまり寝ていない」といった配慮してほしい状態であることが伝わります。わたしたちの言葉は常に特別なものである必要はありません。どこかで聞いたことのあるフレーズ、聞き覚えのある言い回しで十分なのです。
聞いたことのあるフレーズを使うのは、会話相手にとってもメリットの大きいものです。先ほどの就職説明会の例ではないですが「御社のお給料はいくらぐらいですか」と言われたら「残業込みで手取りが〇〇万円になりますが、評価次第でどんどん昇給していきます」とすらすら返答できます。ここでいちいち手取りの額を頭の中で計算して答えを返す採用担当者はまずいません。
私たちは普段から自由に会話しているように思えますが、実は想定問答集のやり取りをしているようなところがあります。それを意識した上で、「髪を切ったんですね、イメチェンですか?」といったフレーズをいつでも使えるよう蓄えつつ、「実は近所の美容室が30%OFFのキャンペーンをやっていまして」と切り返して美容室の話へつなげるなど、定型的なフレーズをきちんと押さえておきましょう
次のLessonでは、コミュニケーションを行う際の心理学的なテクニックをお伝えします。