Lesson6-6 ワーキングメモリを増やす

ワーキングメモリの配分を考える

コミュニケーションを楽に行うために重要なことは、ワーキングメモリの使用量を極力抑えることです。相手をさまざまなソーシャルスタイルで分類するのも、自分の声や健康に気を付けるのも、全てはワーキングメモリの使用量を抑えるための工夫です。

これは「少ないワーキングメモリをやりくりする」ための方法で、マラソンにたとえるなら息切れしないように体力を温存しながら走るのに似ています。序盤で全力疾走すれば一時的に先頭集団の仲間入りも出来るでしょうが、それでは途中でばててしまいます。ベテランのおじいさんが最後まで走り切れるのは、身体が強いのではなく力の入れどころを間違えないからです。

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とはいえベテランのおじいさんと若いランナーを比較すると、やはり体力や筋肉量で大きな差が生じますから、基本的には若いランナーの方が強いものです。ワーキングメモリに関しても同じことが言えて、一度に四つ以上のことを考えられる人と三つまでしか考えられない人なら、前者の方が圧倒的に会話をする上では楽になります。

ワーキングメモリを増やす

ワーキングメモリを増強するには様々な方法があります。ここでは有名なものをいくつか紹介しましょう。

イメージング

ワーキングメモリが加齢によって著しく低下しているときは、メモリの容量を回復させるために想像力を逞しくするのが良いとされています。

イメージングは想像力の訓練です。本を読んだり人の話を聞いたりすると、頭の中に情景を思い浮かべたりしますよね。この訓練を行った人の脳をMRIでスキャンすると、訓練前に活動していなかった部分が活発に活動していた、という報告があるのです。

普段の日常生活で人と話したりしていれば、わたしたちのワーキングメモリは意思疎通に支障がない程度にはなるのです。しかし、想像力を逞しくする訓練をすることで積極的に鍛えていけば、他者とのコミュニケーションに更なる余裕が生まれ、老化防止にもつながるでしょう。

二重課題(dual task)

「ご冗談でしょう、ファインマンさん?」というエッセイで有名な物理学者のファインマンが用いた方法です。二重課題はもともと心理学の実験なのですが、同時に二つの課題をこなすことで片方の課題に割けるリソースの量が変動することを確認するのに最適です。

どのようなものかと言いますと、

文章を読みながら頭の中で1から60までカウントする

という実験が代表的です。ファインマンは本を読みながらでも全く問題なく数字のカウントが出来るのですが、仲間の中には「本を読みながら数字をカウントするのは難しい」という方がいました。その理由がとても簡単なもので、

  • ファインマンは本を読みながら頭の中で数を数えていた
  • 仲間は本を読みながら頭の中で「数字の書かれたテープが動くのを見て」カウントした

という違いに起因しています。

ファインマンの思考は言語的なもので、仲間の思考は視覚的なものでした。ファインマンは本を「視覚的に」読んでいたため、「視覚」と「言語」の二重課題を難なくこなせていたのです。しかし仲間は「視覚的に」本を読みながら「視覚的に」数字を数えていたので、頭の中で同じ領域を同時に働かせることになり、結果的にリソース不足に陥りました。

逆に言えば、この実験は頭の中で「視覚」「言語」の領域を片方だけ重点的に使うことでワーキングメモリを鍛えたり、両方偏らないようにバランスよくトレーニングを行うことで総合力を高めるという練習方法に応用できるわけです。

他にもワーキングメモリを増強するための脳トレの方法は沢山あります。最近ではスマートフォン用のアプリで脳の力や反射神経を総合的に鍛える様々なアプリが出ていますので、一日五分、暇な時に脳トレアプリで遊んでみるのもいい練習になるでしょう。