Lesson6-4 笑顔とコミュニケーション

笑顔はコミュニケーションの難易度を下げる

コンビニやレストランに行けば「いらっしゃいませ」と笑顔で対応してもらえるものですが、サービスに含まれていると分かっていたとしても、笑顔で対応してもらえるとても気分が良くなるものです。

しかしいつもニコニコ笑顔でいるのは簡単なことではありません。世の中には上手く笑えない人も多数いらっしゃいます。表情筋の硬い方、笑い慣れていない方にとっては、笑顔を作るハードルは想像している以上に高いものです。

笑い慣れている方でも精神状態によってはなかなか上手くいきません。笑い飛ばした方が良い場面でも、沈んだ気分になってしまうとなかなか笑顔を作れないものです。

慣れている方にとっては簡単なことかもしれませんが、適切な場面で適切に笑顔を作るのはちょっと頑張らなくてはいけないことなのです。私たちが身体を鍛えて発声練習などをして自分の声を魅力的にするのと同様に、フェイシャルマッサージをしてみたり表情筋を緩めたりして「笑う練習」を整えれば、笑顔を作りやすくなります。

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笑顔には医学的にもメリットがあると言われていますし、ビジネス心理学においても上手く活用すべきテクニックとして推奨されています。

笑顔の効能

笑顔を浮かべるとお互い幸せな気分になれる……とはよく言われていますが、笑顔の効能は決してそれだけではありません。まず、健康面への効能として以下のようなものが挙げられます。

笑顔を作ることで免疫力が向上する

免疫には様々なタイプがありますが、笑顔を作ることでリンパ球の一種であるNK細胞やB細胞が活性化されることが知られており、笑いの度合いによって80%~数百%も増加するといったデータが存在します。

アレルギーの改善

笑顔を作る、笑うことでアレルギーを引き起こす原因となるIgE抗体が減少し、アレルギーやアトピーなどの症状が緩和されます。

心臓病の予防に効果がある

普段笑顔を浮かべられるような生活をしている人ほどストレスが少ないから、という理由もあるのでしょうが、笑顔を作ると精神的ストレスの度合いが軽減される傾向にあります。かつて米カンザス州で行われた研究では、心拍数と被験者の自己申告から、笑顔を作る学生ほど心拍数が上昇せずストレスの度合いも少ないことが明らかになりました。

リウマチにも効果がある

インターロイキン-6(IL-6)というたんぱく質が炎症や免疫疾患のメカニズムに関与していることが明らかになりました。近年ではこれを押さえるための研究が行われていますが、実はこのIL-6の値を押さえるのに最も効果的な方法は「笑う」ことだとされています。現在では様々な鎮痛作用のある薬が開発されて今いますが、笑いは既存の薬を使うよりIL-6の値を減少させる作用が強く、特にリウマチで悩んでいるお年寄りに落語を見せるのが効果的だとされています。

このように「笑顔」には様々な健康効果があります。もちろん健康効果は副次的なものですが、ストレスの軽減や免疫能力の強化のために日々笑うことを心がけていると、それだけで健康上の心配事が部分的に解消されて、人と話す時の負担が減ります。負担が減ればその分ワーキングメモリーの使用量も抑えられますから、コミュニケーションを少しだけ楽に出来ます。

しかし、これはあくまで副次的なものです。笑顔を作ることでコミュニケーションが上手くなる理由として、最も大きなものは「ドーパミン系の神経活動の変化」なのです。

ドーパミン系の神経活動に変化が生じる

こんな面白い実験があります。

被験者の女性に二通りのやり方で割り箸をくわえてもらいました。横にした場合と、ストローのように縦にしてくわえてみた場合の二通りです。横にした場合は強制的に笑顔のような表情になり、縦だと沈鬱した表情になります。

この二通りの状態でドーパミンの放出量をチェックしてみたところ、びっくりするような結果が出たのです。実験を行ったドイツのミュンテ博士によれば、顔と似た表情を作るとドーパミン系の神経活動が少し変化して活発に働くようになるのだそうです。

ドーパミンは「快楽」に関係した神経伝達物質ですから、簡潔に述べますと、これを活性化させることで素敵な気分になれるのですね。いつも笑顔でいる人が幸せそうなのは、常に幸せであるからとは限りません。笑顔を作ることでドーパミンの神経活動を制御して幸せな気分を自ら作り出している可能性もあるのです。

さて、この実験には少し続きがあります。笑顔を作ったままの状態でマンガを読むと笑顔を作らない状態より評価が高まったり、笑顔を作ったままでいると単語リストの中からポジティブな意味の単語を選ぶ傾向が強くなるのです。

すなわち、笑顔は周囲から悪いものやネガティブなものを排除して良いものだけを集中して選び取る役割を有しているのです。人とコミュニケーションを取る際も、こうして笑顔を活用することで自分の心理的負担を軽くすることが出来ます。

もう一つ大事なのが笑顔には伝播効果があるということです。「もらい泣き」という言葉があるように、人は他人の感情的な動きに釣られてしまう生き物です。笑顔も例外ではなく、会話相手に伝わって相手を笑顔にする効果があるのです。

お互いに笑顔でいれば嫌なことはだんだん気にならなくなっていきます。笑顔の効果を相互共有することでコミュニケーションの質を高めていきましょう。